Mathematics

Introduction to Smooth Manifolds

著者

J. Lee

内容

なめらかな多様体についての基礎知識をほぼすべて網羅していると言っても過言ではない本。多様体の定義から始まって、多様体の埋め込みや1の分割、ベクトル場、微分形式といった内容はもちろんのこと、de RhamコホモロジーやLie群、Whitneyの埋め込み定理、さらにはシンプレクティック幾何の基礎まで書かれていて何でもござれである。多様体が関係するより発展的な事項を勉強しているときに知らないことがでてきたらこの本を見ればだいたい解決すると思っておけば大丈夫なはず。ただし、概複素構造については書いていないので、それは松島与三『多様体入門』を参照するとよい。

感想

この本を初めて目にしたのはたしか大学3年生のときだったと思います。見た瞬間ひっくり返るほどの衝撃を受けました。Introductionと言いつつそれまで自分が身につけてきた多様体についての知識のほぼすべてが書いてあり、しかもそれはこの本の3割程度を占めているに過ぎませんでした。また、1年くらい「こういう命題って成り立つんだろうか」と考えていた問題が、はるかに一般化された形で「成り立つよ!」と書いてあったのにめちゃめちゃ衝撃を受けました。
そして何よりすごいのが証明の書き方です。同じ定理の証明でも、今まで見てきた本より信じられないほど分かりやすく理解できるように書かれていました。特に衝撃的だったのはFrobeniusの定理の証明です。もちろん十分な準備あってこそですが、一瞬で証明が終わっていてビビりました。また、(コンパクトとは限らない多様体の)Whitneyの埋め込み定理の証明はかつて原論文を読もうとして、論文を開いた瞬間閉じたという苦い経験がありましたが、この本で初めて理解できました(が、すぐに忘れました)。無人島に多様体の本を一冊持っていくとしたら間違いなくこの本です。
一方で、初学の際にこの本を開くのはあまり得策ではないかもしれません。というのは、あまりに量が豊富なので目次を見ただけで打ちのめされてしまうかもしれないこと、必ずしも初学の際には読まなくていいところに詰まって時間を浪費してしまう可能性があることが懸念されるからです。実のところ、この本の1割程度に相当する内容を理解していれば多様体論中級者と言ってもいい力がついていると思います。したがって、初めは『多様体の基礎』のようなやさしい本で真の基礎を勉強し、より発展的な勉強をしていく中で必要になった知識をこの本で補充する、という方法で活用するのが良いのではないかと思います。

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